ケネベック川 8月下旬

Kennebec River, Maine,
 ケベックの中心街からムースヘッド湖(Moosehead Lake)まで、大体3時間半かかった。
 この湖は、メイン州で一番大きな湖だそうで、周辺の森林は豊かで、ムース(ヘラジカ)を始めとする野生動物の宝庫ということだ。

 ここは、湖尻にあるグリーンビル(Greenville)という村。
 事前に下調べはしたのだが、アメリカのガイドブックは写真や地図もイマイチで、どうも様子がよくわからない。

 釣り券を買う際に勧められたケネベック川の流れ出し(ムースヘッド湖からの流れ出し)の直下のポイントへ入ることにした。East Outlet と呼ばれる場所である。
 ついに、これぞアメリカという大きく太い川で釣りをする。

 川の中心は深そうだが、両岸3分の1くらいは、ウェーディング可能。水が透明で足元はよく見える。底石がしっかり入り、流れに変化がある。これなら、川面を区切って捉えることで、十分釣りになる。

 しかし、この日は夕食までという約束で、フライへの反応もなくロッドを畳む。
 今回の宿泊は、ムースヘッド湖畔のBirches Resort というアウトドアで有名なコテージ群。
 ロッジの釣りプロ曰く、ここの盛期は7月までで、8月は水温が高過ぎ、早朝かイブニングしか釣りにならないと言う。ここの川は、どれも湖と湖を結ぶ形で流れており、湖面で温まった表層水が放水されるので、川の水温が上がるというのだ。確かに、常に19度ほどあった。

 朝の釣りは苦手なのだが、よく朝は、4時半に起きて、湖の対岸にある川まで約1時間のドライブ。
 途中、ムースを見かける。バージニアで見かける鹿とは桁違いにデカい。ラクダみたいに不思議な姿かたち。

 後で聞いたら、なかなか出会えないものらしい。この写真は翌朝撮ったのだが、二日連続で出会えるというのは、よほどラッキーということか。
 教えてもらった川はこれ。ローチ川(Roach River)という。
 しかし、そこで釣っていたおじさん(むかし、岡山に住んでいたとかで、話がはずんだ)曰く、水温が高すぎ、釣りにならないから、対岸に戻って、湖の中層水が放水されている川へ行けと勧められる。
 これがその場所。ムースヘッド・リバーという川の流れ出しである。
 プールは深く、ドライやニンフには無反応。ストリーマーをリトリーブしたら、こんなのが・・・。あぁ、ガッカリ・・・涙。
 家族をピックアップして、ドライブを兼ねて他の水系へ向かう。

 これは、ロッジに一番近いよろず屋さん。
 とにかく広大な森林と湖の景色が続く。
 約1時間のドライブの末、たどり着いた川は、デッド・リバー(Dead River)という、「終わってる」としか思えない名前の川。一応、ガイドブックではお勧めとされていた。

 しかし、この川のアクセスは最悪。この写真を撮った場所にたどり着くためには、地上高のある四駆でしか入れないきついダートを進む必要があった。
 しかも、これだけ太いと、子連れで入るのはちょっと不安。。。
 ずっと上流に良さそうな支流があるので、そこを目指してみる。

 しかし、道はこんな感じになり、ついには、まったく通行できないほどの悪路になってしまった。何でも自己責任の国なので、ダートの入り口に「通行不能」などとは警告がなく、30分も行った末に行き止まり。

 結局、デッド・リバー水系は断念して、ケネベックでイブニングを頑張ることにした。
 子供達と一緒に良さそうなプールの脇に立ちこんでキャストする。

 ドライに反応がある。しかし乗らない。

 遠くの流心でデカいのがジャンプしているが、届かない。

 太陽が沈むと、何種類かの虫がハッチして、ライズが始まった。しかし、手持ちのフライは合っていないようだ。
 かなり暗くなってきた時のことだった。岸際で、ハヤが釣れた。針を外そうとしたら、魚が跳ねて、外れないまま水中に落ちた。

 そこへ、水の中から大きな黒い影がサっと近づいたかと思うと、ティペットを押えていた指に衝撃が走った。ハヤは、跡形もなくなっていたティペット5xは一瞬でぶち切られた。


 こんなふざけた挑戦を受けて、本気にならないフライマンなどいるものだろうか!?
 よく朝も、5時半に起きて同じポイントへ向かう。

 
 ホーンを鳴らして、貨物列車がゆっくりと進んで行く。木材やチップを満載した貨車を数え切れないほど牽引していた。機関車は5連結!

 釣りの方は、3時間やって、反応すら得られなかった。闘志を燃やしつつ、一旦宿へ戻る。
 昼間は釣りしても仕方がないので、子供達と湖でカヤックを漕いでみる。

 ストリーマーをハーリングするのも忘れなかった(笑)。
 夕方、同じポイントへ戻る。ここは激戦区なので、別のポイントにする手もあったが、この場所でどうしても釣りたかったのだ。 
 近くで子連れフライマンがロッドを振っている。どうみても12−3歳の子が、短パン姿で胸まで立ちこんでいて、時々こけて首まで水に浸かっている。

 大丈夫なんだろうか、この親子。。。汗

 彼が流されたらどうしようかと、密かにシミュレーションする。
 今回はとにかく本気である。ハッチする虫に注意を払っていると、いろいろな虫が短時間ハッチし、魚がそれに反応する、というのを繰り返しているのがわかる。
 その度にフライを換えてキャストする。反応が得られることもあるが、水面に波紋が立つだけで見切られるケースも多い。これは本当にシビアだ。

 目の前1mでデカいのがジャンプした。姿がよく見えた。ランドロックサーモンというと何かと思うが、ようするに本流ヤマメみたいなヤツということか。見た目もそっくり。
 太陽は完全に沈み、月が出てきた。#16くらいのカディスが出てきて、キャップやベストにまとわりつく。魚は周囲で次々とライズする。流心方向では、見えないが、「ばしゃっ」と並みの大きさではない跳ね音がする。

 焦ってフライを換えるが、乗らない。僕のカディスはエルクヘアばかりで、尻つぼみのシルエットが出ていないからだろう。

 フライボックスの中から、出来損ないのエルクを発見。いくぶんシルエットが似ている。それをキャストする。

 もはや暗闇でフライは見えない。心の目でフライを追い、反応がないと思ってピックアップした時、何かひっかかっていると感じた。ラインを張ってみると、「え?」 かかっているではないか!?

 慌ててファイティングモードになり、ロッドを斜めに立てた。魚は、上流に向かってゆっくり、しかし容赦なく進む。

 どれくらい大きいのかわからない。水面に出してみようと力を入れた。魚は流心へと進路を変えた。

 本能的にロッドを立てる力を強めてしまった。その瞬間、パーンとフックが外れてしまった。

 呆然と立ち尽くした。再び何度かキャストしたが、もうハッチもライズも止まっていた。

 悄然として、車に戻った。あれほどの挑戦を受け、本気で臨んだのに、ものの見事に敗北してしまった。こんな経験は初めてだった。自分の技量の不足を思い知らされた。

 宿に戻ると、なんと、子供達がロッジ近くの船着場で、大勢のギャラリーの前でマスを釣り上げていたとのこと。ちょっとうれしかった。

 いや、こんな悔しい釣りは初めてだ。フライのタイイング、時合いを見る能力など、あらためて学びなおそうと決意を新たに、バージニアに向けて南下したのであった。
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2010年の夏休み、ケベック州に引き続き、その南にあるアメリカ・メイン州のムースヘッド湖に滞在。この辺は、「ランドロックド・サーモン」が釣れる、東海岸のフライの名所である。