奥日光湯川 6月中旬

 6月初旬に湯川でオフ会に参加したことを紹介したが、その時は、初めての川で初めての人たちと一緒に竿を振るということで、さすがの私も少々緊張し、結構魚は釣れたのだが、東京に戻ってから、「果たしてオレは魚釣ったんだろか?」という気になった(笑)。

 翌週の週末、運良く色々な日程のやりくりがついたので、一念発起してひとりで行ってみることにした(「フィールドにて4」に載せたETC節約大作戦は、そのときのもの)。

 夜行のドライブで、赤沼茶屋に着いたのは午前2時を回っていた。標高1400mは肌寒く、見上げると天の川が神々しい音を立てて落ちてきそうだった。車が何台も止まり、窓ガラスが曇っている。似たような人たちが結構いるのに驚いた(みんな釣り大好きね)。そういえば、戦場ヶ原に着く前に通る中禅寺湖畔でも、その時間から釣り人が大勢いてたまげた。

 川へは、7時頃に入る。ベストシーズンの週末である。日中は大勢のハイカーが行き交う賑やかな場所であるが、早朝、たった一人で湿原の真ん中を走る木道を歩き、鋭い朝日が作る陰影に出会うとなぜか緊張する。誰もいないポイントへ着いたときは、まだ鳥の声もまばらで、その静けさに身震いがした。湯川に慣れた人にとっては当たり前かと思うが、瀬音がなく流れゆく川は、普段の生活で出会うことのないタイプの風景なのだ。

 朝一番の川は、上流に人が入っていないためか、水がよく澄んでおり、水面は文字どおり鏡のようだ。乱暴なキャスティングで壊すのは気が引け、キャスティングは、自然と丁寧なものになる。細いティペットでも水面で気になるほど目立つ。それでも、この付近で2匹釣ることができた。

 9時頃、しばし休憩をとっていると、湿原全体が低く「ごお〜っ」と鳴り、地面がゆさゆさと揺れた。揺れはすぐ収まったが、ただでさえ静か過ぎて怖いくらいだったことに加え、火山地帯でもあり、実に不気味である。帰宅後に気象庁のサイトを見たら、栃木県北部だけで観測された震度3の地震だったようだ。

早朝の鏡のような水面

 その後、先週に引き続き小田代橋の上流へ。ここでも何匹か追加したが、なにせ釣り人の数が多く、川上・川下から人が寄ってくるので、どうも調子が狂う。小田代橋より下流の湿原地帯ではあまり人が多くなかったが、どうも魚の反応が悪かったから上流に集まっているらしい。

 昼頃、意を決して下流方面へ。よく晴れており、人は少ないがライズも少ない。右の写真で対岸に見える木の手前と奥(対岸との間の狭い空間)で控えめなライズを見付け、8xのティペットを長めに付けてオナシカワゲラ#20を流す。木の手前のライズはすぐに取れ、奥のマスを狙うが、フライがライズポイントに届くか届かないかというところでティペットが手前の枝にひっかかる。こういう川では、「し」の字にティペットが落ちてフライが先行するようにできればいいのだが、なかなかねぇ。。。ところが気合でキャストしたところ、運良くそう流れ、釣り上げることができた。私の本職?釣り上がりでは経験できないことで、嬉しかった。

この辺りで唯一ライズがあった木

 その後、近くの誰もこない静かなポイントに移動。ライズの数が増えてきて、フライをとっかえひっかえして順次とっていった。対岸で藪がオーバーハングしている岸際にて大きめのマスが補食している。色んなフライを届けるが、水面下まで見に来ては帰っていく。7種類試してダメで、最後にフォームアントを流したら食べたが、こういうのは嬉しいものだ。26〜27cmの立派なマスであった。

釣るのに苦労しただけ嬉しい!

 そのうち、モンカゲ?の大量ハッチが始まった。茶色い筒状のものが水面に浮かんできては、カゲロウが羽化し、しばし水面に立った後、羽ばたいていく。立ち上がってから飛び立つまで15m位流されるが、その間に相当数が食べられてしまう。中には、せっかく飛び立ったと思ったら、ジャンピングライズ(しっぽまで全身水面に出る)で食べられた気の毒な虫もいた。飛び立った虫を空中で捕らえるなんて、魚の能力もすごいと感動。

夕刻まで数え切れないほど釣った。この日一日、ほとんど誰とも話さず、静寂の中、ひとりで無心に竿を振っていたことは、貴重な思い出になった。

6月の湯川のシンボル「ズミ」は満開!